第七話「空ってなんだゾウ？（後編）」

そうだね。

なるほど。
確かに「空」と聞くと、少しうつろな、もの悲しいイメージを持つ人もいるかもしれないね。
実際、そのことで仏教をニヒリズム（虚無主義：全てのものに価値は無いとする考え方）と主張する人もいるし。
よし、一緒に考えてみよう。

うん、「空」は確かに中々強い表現だよね。様々なものに変わらない実体を求める人の性（さが）から離れなさいというのが、仏教の立場だから、あえて否定的な強い言葉が使われているのかもしれないね。
実際、「空」を主張した龍樹菩薩（2～3世紀頃）在世時、不変不滅の実体の存在を主張する議論は、仏教内部においても盛んだったみたいだし。
ただこの言葉の表面だけを見て、仏教を虚無主義と判断するのは早計かなと思うんだ。
きくぞう君、前回「色即是空（しきそくぜくう）」について話したこと覚えてる？？

そうだね。
それじゃ、その後に何てお経が続くか分かる？

うん「空即是色（くうそくぜしき）」。
「空すなわち、これ色なり」だね。

うん、実はこの2つはセットの教えでね。「色即是空」だけでなく「空即是色」も合わせて考えないと、思想の全体像が見えないんだ。
まず「色即是空」なんだけど、これは不変の実体の存在が「有る」と執着することへの否定。言うなれば「有」の否定だよね？

そうだね。
逆に「空即是色」はね、存在が「無い」ということへの否定。つまり「無」の否定を表わすことばなんだ。

「空」は「仮和合（けわごう）」という言葉で説明されることがあってね。
確かに、この世に「独立した不変の実体」は無いと仏教は説くんだけど、では存在が「無い」のかというとそうではなく「様々な因縁がより集まり仮に和合して、変化しながらも存在している」と、こう捉えるんだ。

つまり「空即是色」は「空（実体が無い、つまり諸因縁が仮に和合した状態）という状態で、色（いろ形）として現れている」という意味だね。

うん、龍樹菩薩も「有無の二見を破す（有の見解と無の見解どちらからも離れよ）」と仰っているね。

だから「空」はね、虚無的なものではなく、だからといって不変の存在を求める言葉でもない。事象を事象のまま真正面から捉える、そういった姿勢を説いた言葉だと思うんだ。以前話した、存在のありのままを知り見る、「如実知見」（第五話参照）の境地だね。

うん、そうだね。
そういった「苦・楽」や「善・悪」、また「有・無」などの、偏った固定的な見解、両辺を離れる見方を、龍樹菩薩は「中観（ちゅうがん）」と呼ぶんだ。

それだと、今度は中心を取ることに執着してしまうかな（笑）
そうではなく「一方に偏らない心を保つこと」。「偏ってはだめですよ、それは苦しみの元ですから」というのが仏教の立場だね。

そうだね。

さて、これまでは、自分の都合という色眼鏡を外して、ものごとのありのままを見る、仏さまの「智慧」を中心にお話ししてきたわけだけどね。
仏教の目指すところはこの「智慧」の獲得と、そしてもう一つ「慈悲」の実践であると言われているんだ。
次回はこの「慈悲」について。一緒に考えよう。